人文学をテーマにしたカフェ「HUMANITIES CAFE fudoki(ヒューマニティーズ・カフェ・フドキ)」(さいたま市大宮区大門町)が7月10日、大宮駅東口にオープンした。
店主の吉原啓さんは日本古代史を専門とする研究者。奈良大学大学院で学んだ後、東国(とうごく=関東)の古代史に興味を持ち、栃木県内の大田原市なす風土記の丘湯津上資料館、大田原市歴史民俗資料館で学芸員を務めた。奈良県立万葉文化館では主任研究員として、万葉古代学に関する論文も多数執筆している。
店名の「HUMANITIES」は人文学の意味で、歴史学・哲学・考古学などを含めた幅広い概念を指す。店名「fudoki(フドキ)」は奈良時代に編さんされた書物の「風土記」から取った。
吉原さんは大学院時代から「研究の成果を社会に還元する場が必要。博物館は来る人が限られてしまうため、気軽に来られるカフェで多くの人に人文学に触れてほしい」と考え、研究と並行してカフェ開業の準備を進めてきた。
「万葉の歌クリームソーダ」(800円)は万葉集を題材とした月替りのメニュー。7月の歌は「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕(こ)ぎ隠る見ゆ(中西進「万葉集 全訳注 原文付き」(講談社文庫)」。月をかたどったクッキーと星型の黄桃、夜空をイメージした桃のソーダを使っている。題材となった歌についてはメニューカードで詳しく解説している。
テイクアウト用の「埼玉考古クッキー」(660円)は、埼玉県内で出土した土偶や埴輪、古墳などをモチーフに、オリジナルの型で焼いたもの。1000~1300年前の古代埼玉(武蔵国)で食べられ、当時の貴族にも献上されていた菱(ひし)の実の粉を加えている。
ドリンク・スイーツ以外に、パスタや肉料理などの食事メニューも用意。カフェ開業前の数年間、大宮の飲食店に勤務して料理の修業を積んだ。ランチ限定のエッグベネディクトは、手間のかかるオランデーズソースを毎朝手作りで仕込んでいるという。
店舗は、43年続いた喫茶店「樅(もみ)の木」跡。白を基調としたインテリアで、「樅の木」当時の出窓をそのまま生かしている。店内の本棚には吉原さんの論文をはじめ、古代史や万葉集に関連する資料を並べる。店の外壁では、古代史をテーマにしたパネル展示を行っている。現在のテーマは「菱 古代の埼玉と菱の食文化」。
吉原さんは「カフェを営業しながら、自分の研究も続けていきたい。今一番興味があるテーマは、大宮の氷川神社東遺跡の集落跡について。将来は研究者を招き、店内でミニ講演会なども開きたい」と話す。
営業時間は11時30分~21時。水曜・木曜定休。