さいたま市見沼区の田んぼ(見沼区加田屋2)に、わらを積み上げて作った「フナノ」が完成した。
わら束をまとめて屋根部分を作る様子(写真提供=高橋正幸さん)
制作は見沼地域で活動する15の市民団体による「見沼たんぼの文化遺産・フナノ保存会」(共同代表=中野栄寿さん、島田由美子さん)。わらを集め、乾燥し、下草を刈り取るなどの準備段階から制作まで約100人が携わり、11月7日~9日にかけ約7トンのわらを積み上げ、縦2.7メートル、横3.5メートル、高さ3.9メートルのフナノを完成させた。
フナノは、稲作でモミを刈り取った後のわらを、馬や牛の肥料、燃料や生活用品として冬場の農閑期に大切に保存し使うためのわら塚で、昔は全国各地の農作地で作られていたが、見沼では長く作られていなかった。全国各地でワラ塚の呼び名は違うが、周辺の農家への聞き取り調査で、見沼地域には「フナノ」というわら塚があったことが判明し、島田さんが代表を務めるNPO法人「見沼ファーム21」が2008年に約50年ぶりに「フナノ」を復元し、完成した。その後、3回のフナノ作りを行い、フナノを見沼田んぼの貴重な文化遺産として残していきたいという思いから2016年に「見沼たんぼの文化遺産・フナノ保存会」が結成され、2年に1度制作している。
フナノ制作7回目となる今回は、見沼の地元の農家に指導を受け、吉田忠男制作部長が指揮を執ってわら束をイゲタに組む方法でフナノを制作。楕円状にわら束を重ね、平らになるように調整しながら約1.7メートルの高さまで積み、その上に屋根用に編んだわらを載せる。最後にわらで作った「獅子頭(シシガシラ)」を飾り付けて完成となった。舟の形に似ているためフナノと呼ばれていたという説もある中、できあがりは家によく似た形で、のどかな見沼の秋の風景に溶け込んでいる。
11日に行われた完成披露会では、同会の名誉会長であるさいたま市の清水勇人市長が「フナノは見沼田んぼの象徴的なものであり、秋にできるのを楽しみにしている。ぜひこの文化を継承していきたい」とあいさつした。訪れた人々が珍しそうに写真に収めたり、近くをジョギングする人が思わず足を止めたりする姿も見られている。
フナノは2019年2月まで展示。11月23日には、「フナノを囲んで満月観賞会」として、日没近くの16時ごろから18時ごろまで、竹筒にろうそくを入れて火をともすライトアップと、篠笛奏者による吹奏も行われる。