「卓越した技能者(通称=現代の名工)」の表彰式が11月11日、東京都内で行われ、さいたま市から和生菓子製造工の石川忠久さんと表具師の井上和夫さんが受賞した。
「現代の名工」は、技術者の地位向上や優れた技術の継承などを目的に、厚生労働大臣が建築や金属加工、衣服の仕立てなど全22部門において卓越した技能者を表彰する制度で、今年は全国から138人を選出した。
石川さんは茨城県生まれ。15歳で和菓子職人となり複数の和菓子店で腕を磨いた後、1985(昭和60)年に「和生菓子豆の木」(さいたま市北区)を開店。安定した製造が難しいとされる「紫花豆」の蜜煮を試行錯誤の末に完成させ、現在も看板商品となっている。「日本菓子協会東和会」会長時代には、和菓子業界の年功序列的な慣例を廃止したことや、東京製菓学校で長年教壇に立ち後進の育成に尽力した功績も評価された。
石川さんは「和菓子の道に入った時から『一流の職人』を志し、どんな依頼でも引き受けた。出店や講師として全国各地に出向き忙しかったが、そこでの人との出会いがあって今がある」と振り返る。今回の受賞については、「簡単に頂けるような賞ではない。周りの支えと『人生精いっぱい』という言葉を大事にまい進してきた結果。元気な限り、店を続けながら、若い人たちに技術を伝えていきたい」と意気込む。
井上さんは山形県生まれ。20歳の時に表具店を営む義兄に運転を頼まれたことがきっかけで、表具の仕事を手伝うようになり表具師となった。独立して「井上表具店」(岩槻区)を創業。以来、長年にわたり家屋などの内装や表具作業に従事し、特にふすま製作において卓越した技術を評価されてきた。「埼玉県表具内装組合連合会」会長を務めながら、技能士検定委員やポラス建築技術訓練校などの講師として後進の指導・育成に取り組んできたことも受賞の理由。
井上さんは「受賞できてうれしい。思いがけないことから表具師となったが、この道を選んで良かった。表具師は、刃物の研ぎ具合やのりの加減で出来栄えが大いに違ってしまう、失敗の許されない仕事。親方に徹底的に基礎を教わった。苦労もあったが、工務店や企業など人との出会いが面白く、辞めたいと思ったことはなかった」と振り返る。「時代が変わって和室のある家が減り、若い人が『表具師』をなりわいにできなくなってしまった。表具の技術を使った新しい仕事を作れないかと仲間と相談することもある。技術継承が途絶えないよう、いろいろな所で教えていきたい」と話す。