東武アーバンパークライン(野田線)の七里(ななさと)駅のシンボルとして愛されてきた3本の桜の木が伐採もしくは移植の予定となり、現在、計画の見直しを求める署名運動が行われている。桜の撤去は駅の橋上化と自由通路整備工事、駅周辺の区画整理事業計画に伴うもの。
七里駅の近くに住むバイオリニストの井上陽子さん(73)は2020年3月、散歩途中に駅北側の桜の木の裏側の小道で、桜の木を撤去するという区画整理組合のお知らせを掲示した小さな看板を見つけたという。
井上さんは長年春になると駅の利用客や住民を楽しませてきた桜の木を伐採するという通告に驚き、地元の有志と共に「七里の桜を守る会」を立ち上げ桜の現地保存を求める署名活動を開始。11月までに6000筆を超える署名が集まった。現在、桜の伐採は延期されているが2010(平成22)年までに地区内全域の地権者約700人に対して仮換地指定を完了しており、道路や公園などの計画の見直しは難しい状況と施工者側は言っているという。
「約700人の地権者の中には桜の伐採について知らない人もいて、署名に協力したり、意見交換会で桜の保存を望む発言をしてくれたりした人もいる」と井上さんは話す。同会のさいたま市土地区画整理協会の質問事項への回答では、事業計画を立てる際に、七里のシンボルである桜の土地を換地から除外しようとの計画は無く、桜の場所は将来的に商業・業務機能が求められることを想定し、中高層住宅にも対応できるように配慮するとされ、他の樹木と同様に桜の木も撤去することが想定されているという。
七里駅は1929(昭和4)年に開業。駅名は昔の村の名前、北足立郡七里村に由来する。近年、春の桜の開花シーズンになると、駅員が2番線ホームのベンチを桜の方に向けて置き直し、座りながら桜を鑑賞できるようにしていたことから、「七里駅の花見」は駅の名物となっていた。遠方から七里の写真を撮りに来る人や、電車を何本か乗り過ごして桜に見入る人もいた。
駅のホーム側に枝垂(しだ)れて咲く3本の桜は、下から何本にも分かれて扇形に豪華に咲き誇る。事業計画ではここに6メートルの道路ができ、中高層住宅を想定。桜の根元から3メートルまでを伐採し、桜の根元の上に工事用の塀を設置する。現在、伐採予定の桜の木の枝にはテープで枝切りのマーキングがすでに施されている。桜の北側の柵には、桜を愛する住民たちの保存を望む言葉を記した短冊が風に揺れていた。
桜守で樹木医・玉木恭介さんの調査によると「桜はソメイヨシノでは珍しい株立ち樹形。ソメイヨシノとしては日本では第一級の巨樹で、健康状態も良好」という。移植については「桜の幹は傷を作ると雑菌が侵入しやすく、完治できない。桜の古木は移植すべきではなく、現在生育している場所にあっての歴史であり、七里駅に隣接していての付加価値がある。これだけの大きな樹冠を有する樹木が駅構内に存在することが環境の優しさをつくっていることをもっと知るべき」と提言する。
「七里の桜を守る会」では、桜の土地をさいたま市が買い取り、緑地として残すことを約6000筆の署名を添えてさいたま市に要望している。井上さんは「この桜を緑地帯として今のまま現地に残したら、素晴らしい景観の駅前広場となり東武アーバンパークラインという名にふさわしい桜の咲く駅ができる。七里の桜をこれからも見続けていきたい」と話す。
11月15日には、見沼区役所に於いて施工者側と市民との意見交換会が行われる予定。またこれとは別に、11月20日以降に区画整理支援課が七里駅駅舎の工事説明会を開く予定。
「七里の桜を守る会」では電子署名も受け付けている。詳細はフェイスブックページに記載する。問い合わせは、井上陽子さん(TEL 090-5325-5377)、古林孝子さん(TEL 090-7635-6923)まで。